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椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアとは
背骨と背骨の間には、椎間板と言われるクッションがあります。それが飛び出し、真上にある脊髄を圧迫する疾患が椎間板ヘルニアです。椎間板のどの部分が飛び出るかにより、2つのタイプに分類されます(下記)。また、主な発生部位は、頚部および胸腰部です。
椎間板ヘルニアの分類
大きく、ハンセンI型、ハンセンII型の2種類に分類されます。
- ハンセンI型 ある特定の犬種に好発し、変性した髄核(椎間板の中身)が線維輪(容れ物)を突き破って飛び出すタイプで、多くは急性発症します。突然両足が麻痺したダックスフンドなどはこのタイプです
- ハンセンII型 主に加齢により線維輪が肥厚突出し、徐々に脊髄を圧迫するタイプです。多くは慢性的な経過をたどります
椎間板ヘルニアの症状
ヘルニアの発生した部位と程度により症状が異なります。簡単にいえば、軽度であれば痛みだけ、その後ふらつきや不全麻痺が生じ、さらに重度になると完全麻痺に移行します。胸腰部椎間板ヘルニアであれば後肢が、頚部椎間板ヘルニアならば四肢に症状がみられます。
重症度グレード分類
症状の程度により、下記のようなグレード分類をします。
頚部椎間板ヘルニア
- グレード1 頚部痛のみで、神経学的異常を伴わない
- グレード2 歩行可能だが、四肢のいずれかに神経学的異常が認められる
- グレード3 歩行不可能、四肢に神経学的異常が認められる
胸腰部椎間板ヘルニア
- グレード1 歩行可能、症状は痛みのみで、神経学的異常を伴わない
- グレード2 歩行可能だが、後肢の不全麻痺や感覚異常を認める
- グレード3 歩行不可能だが、後肢には随意運動が認められる(不全麻痺)
- グレード4 歩行不可能。後肢にはもはや随意運動は認められないが(完全麻痺)、痛覚は存在
- グレード5 歩行不可能。後肢は完全に麻痺し、痛覚も消失
椎間板ヘルニアにおいては、画像上での脊髄圧迫の程度と症状の重さが必ずしも相関しないと言われており、これらのグレード分類をもとに治療方針を決定していきます。
進行性脊髄軟化症について
重度の頚部椎間板ヘルニアでは呼吸不全を併発するため、時に致命的となります。
胸腰部椎間板ヘルニアが直接命にかかわることはありませんが、グレード4以上では排尿障害を伴うため、QOLは非常に低下します。さらに注意しなければならない合併症に進行性脊髄軟化症があります。これは重度の急性脊髄損傷(グレード4および5、多くはグレード5)に伴って生じる脊髄実質の進行性壊死であり、現時点において詳細な病態生理は明らかになっておりません。治療法は存在せず、臨床的に本症を発症した可能性が高い症例については、通常、人道的安楽死が選択されます。しかし近年、拡大的椎弓切除術+硬膜切開で救命できた症例の蓄積が報告されています。本院においても実施可能な術式となりますので、ご相談ください。
診 断
椎間板ヘルニアの確定診断には、MRIやCTなどの、高度画像診断が必要となります。造影剤によるアナフィラキシーショックの観点からは、MRIによる診断が現時点で最も望ましいと考えられます。いずれの検査にも全身麻酔が必要となります。
治 療
内科療法
脊髄の圧迫が軽度な場合に適応され、歩行可能な症例(グレード1、2)に対する治療となります。基本は4〜6週間の絶対安静です。この期間に進行していくようであれば、外科療法を検討する必要があります。
外科手術
歩行不可能な症例(グレード3以上)については、基本的に早期の外科的減圧を考慮します。頚部であれば逸脱物の位置によりベントラルスロット/片側椎弓切除を、胸腰部であれば片側椎弓切除/小範囲片側椎弓切除術etc.により減圧をはかります。当院では、より侵襲性の少ない小範囲椎弓切除術を第一選択としております。また、II型ヘルニアにおいては通常慢性経過であり、上記手技での圧迫解除が困難な場合があります。脊髄に損傷を与えずに減圧する術式として、椎体部分切除術が挙げられます。
獣医師から
頚部椎間板ヘルニアにおいて、グレード3以上は基本的に手術適応となりますが、それ以下のグレードであっても、画像上での圧迫が重度である、あるいは痛みが強く内科治療で制御困難な場合には積極的な外科手術が適応となります。軽度の頚部椎間板ヘルニアであっても、悪化した場合には致命傷となりうるため、早期の画像診断による状況把握が重要であると考えます。
胸腰部椎間板ヘルニアについても、歩行不能(グレード3以上)である場合には外科治療での治療成績の方が明らかに優れているため、内科治療で引っ張らずに積極的に外科手術を検討すべきと思われます。